「抗精子抗体が陽性です」と告げられると、自分の体が精子を攻撃しているように感じて、大きなショックを受ける方がいます。
しかしこれは珍しい状態ではなく、対応方法も確立されています。この記事では、抗精子抗体とは何か、陽性だった場合にどの治療を選ぶかを解説します。
抗精子抗体とは
抗精子抗体は、精子を異物とみなして結合する抗体です。女性の体内にも、男性自身の体内にもできることがあります。
本来、精子は男性の体内で免疫系から隔離されています(血液精巣関門)。この仕組みが何らかの理由で破綻すると、男性自身が自分の精子に対する抗体をつくることがあります。
女性の場合、なぜ抗体ができるのかは完全には解明されていません。頻度は不妊女性の数%程度とされています。
抗体があると何が起こるのか
抗精子抗体は、精子の表面に結合して次のような影響を及ぼします。
- 頸管粘液内で動きを止める:精子が前に進めず、その場で震えるような動きになります
- 精子どうしを凝集させる:塊になって進めなくなります
- 透明帯への結合を妨げる:卵子に到達しても結合できません
- 受精そのものを阻害する
抗体の強さ(力価)によって影響の程度は異なります。弱陽性であれば自然妊娠が可能なこともあります。
どんなときに検査するか
抗精子抗体検査は、次のような場合に行われます。
- フーナーテストが繰り返し不良(精液所見は良好なのに)
- 原因不明不妊が続いている
- 体外受精で受精率が著しく低かった
- 男性側で精子の凝集がみられる
血液検査で調べられ、周期を問わず実施可能です。費用は自費で5,000〜1万円程度、施設によっては保険適用となることもあります。
女性に抗体がある場合の治療
抗体が存在する場所によって、有効な治療が変わります。
①人工授精(AIH)
頸管粘液中の抗体が主な問題であれば、頸管を通過するステップを省略できる人工授精が有効です。
ただし、抗体は子宮内や卵管内にも存在することがあるため、力価が高い場合は効果が限定的です。
②体外受精(IVF)
培養液のなかで受精させるため、体内の抗体の影響を受けません。ただし、卵子の周囲に付着した抗体や、精子に強く結合した抗体が受精を妨げることがあります。
③顕微授精(ICSI)
もっとも確実な方法です。精子を1個選んで卵子に直接注入するため、抗体の影響をほぼ完全に回避できます。
抗体価が高い場合は、最初から顕微授精を選択するのが一般的です。
治療選択の目安
| 抗体価 | 推奨される治療 |
|---|---|
| 弱陽性 | タイミング法・人工授精を試す価値あり |
| 中等度 | 人工授精または体外受精 |
| 強陽性 | 顕微授精 |
判断基準は施設によって異なるため、具体的な数値と方針を確認してください。
男性に抗体がある場合
男性側の抗精子抗体は、次のような背景で生じることがあります。
- 精管結紮術(パイプカット)の既往
- 精巣・精巣上体の炎症や外傷
- 精索静脈瘤
- 鼠径ヘルニアなどの手術歴
精液中で精子どうしが凝集し、運動率が低下します。治療としては、精子を洗浄したうえでの人工授精、あるいは顕微授精が選択されます。
ステロイド治療について
かつては、抗体を抑える目的でステロイドを投与する治療が行われていました。しかし効果が限定的である一方、副作用のリスクがあるため、現在では一般的ではありません。
現在は抗体を消そうとするのではなく、抗体の影響を受けない方法(顕微授精)で妊娠を目指すというのが主流の考え方です。
抗体は消えるのか
抗体価は変動することがあり、時間の経過とともに低下する例も報告されています。ただし、低下を待つ戦略は年齢の面で不利になりがちです。
とくに35歳以上の場合、抗体が下がるのを待つより、顕微授精で確実に受精を目指すほうが合理的です。
よくある質問
Q. 抗体があるのは私のせいですか?
A. いいえ。抗精子抗体ができる原因は明確にはわかっておらず、生活習慣や行動が原因ということはありません。ご自身を責める必要はまったくありません。
Q. 抗体があると流産しやすいですか?
A. 抗精子抗体は受精の段階に影響するもので、着床後の妊娠経過や流産率との明確な関連は示されていません。
Q. 一度陽性なら、ずっと陽性ですか?
A. 抗体価は変動します。ただし治療方針を決める際は、現時点の値をもとに判断します。
Q. 顕微授精なら確実に受精しますか?
A. 抗体の影響は回避できますが、受精率は卵子と精子の状態にも左右されます。100%ではありませんが、抗体による障害はほぼ克服できます。
まとめ
- 抗精子抗体は精子に結合し、運動や受精を妨げます
- フーナーテストが繰り返し不良なら検査を検討します
- 抗体価に応じて人工授精・体外受精・顕微授精を選びます
- 強陽性では顕微授精がもっとも確実です
- ステロイド治療は現在では一般的ではありません
「治せない」のではなく、回避できる問題です。
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ご利用にあたって
本記事は、不妊治療について一般的な情報をお伝えすることを目的として作成しています。記載している検査・治療の内容や数値は、あくまで一般的な目安です。適応や治療方針は一人ひとりの状態によって異なり、医療機関ごとに方針が異なる場合もあります。実際の診断・治療については、必ず主治医にご相談ください。
また、法制度や公的支援の内容は改定されることがあります。手続きの際は、必ず厚生労働省・お住まいの自治体・各医療機関の最新の公表情報をご確認ください。