不妊治療の説明を聞いていると、「着床」「受精」「排卵」といった言葉が当たり前のように出てきます。しかし、妊娠が成立するまでに体のなかで何が起きているのかを順を追って理解している方は、意外と多くありません。
妊娠の成立には、いくつもの条件が正しい順番で満たされる必要があります。逆に言えば、どのステップでつまずいているかがわかれば、必要な治療も見えてくるということです。この記事では、妊娠成立までを6つのステップに分けて解説します。
ステップ1:卵胞が育ち、卵子が成熟する
月経が始まると、脳の下垂体から**FSH(卵胞刺激ホルモン)**が分泌され、卵巣のなかの卵胞が育ち始めます。この周期にはもともと複数の卵胞が反応しますが、そのうち1つだけが主席卵胞として選ばれ、ほかは自然に退縮します。
卵胞が育つにつれてエストロゲンの分泌が増え、子宮内膜が厚くなり、子宮頸管の粘液がさらさらとした状態に変わります。これは精子が通りやすくなるための準備です。
つまずくとどうなるか:卵胞が育たなければ排卵は起こりません。多嚢胞性卵巣症候群や視床下部性の排卵障害がここに該当し、排卵誘発薬による治療が行われます。
ステップ2:排卵が起こる
エストロゲンが一定以上の濃度に達すると、下垂体から**LH(黄体形成ホルモン)**が一気に放出されます。これがLHサージです。LHサージ開始から約36時間後(24〜48時間の幅があります)に卵胞が破れ、卵子が腹腔内へ飛び出します。これが排卵です。
排卵検査薬はこのLHサージを尿中で検出しており、陽性になってから1〜2日以内に排卵が起こると予測できます。
※出典:生殖内分泌学の標準的な教科書(Speroff’s Clinical Gynecologic Endocrinology and Infertility)。LHサージ開始から排卵までは平均約36時間(24〜48時間の幅)
つまずくとどうなるか:卵胞は育つのに破れない**黄体化未破裂卵胞(LUF)**という状態があります。基礎体温は上がるのに排卵していないため、超音波での確認が必要です。
ステップ3:卵子が卵管に取り込まれる(ピックアップ)
排卵した卵子は、自力で動くことができません。卵管の先端にある卵管采がイソギンチャクのように動いて卵子を捉え、卵管のなかへ運び込みます。
このピックアップ機能は、現在の医療では直接確認する方法がありません。腹腔鏡で癒着の有無を見ることはできても、実際に卵子を拾えているかどうかは調べられないのです。
つまずくとどうなるか:卵管周囲の癒着や子宮内膜症でピックアップがうまくいかない状態は「ピックアップ障害」と呼ばれ、原因不明不妊の隠れた原因のひとつと考えられています。この場合、体外受精であればステップ自体を飛び越えられます。
ステップ4:受精が起こる
一方、精子は腟から子宮頸管、子宮腔、卵管へと進みます。射精された数億の精子のうち、卵管膨大部までたどり着けるのはわずか数百個といわれます。
卵管膨大部で精子は卵子に到達し、透明帯を通り抜けて卵子のなかに入り込みます。1つの精子が入ると透明帯の性質が変化し、ほかの精子は入れなくなります。こうして受精卵ができます。
つまずくとどうなるか:精子の数や運動率が不足していれば到達できません。また抗精子抗体があると、精子は頸管や卵管で動きを止められてしまいます。体外受精や顕微授精はこの段階を体外で代行する治療です。
ステップ5:受精卵が分割しながら子宮へ移動する
受精卵は分割を繰り返しながら、卵管の繊毛の動きによって子宮へ運ばれます。受精から約5〜6日で胚盤胞という段階に達し、ちょうどそのころ子宮腔に到達します。
体外受精で「胚盤胞まで培養する」というのは、この自然な時間経過を体外で再現していることになります。
ステップ6:着床する
胚盤胞は透明帯を破って出てきて(ハッチング)、子宮内膜に接着し、内膜のなかへもぐり込みます。これが着床です。受精から約7日目前後に起こります。
着床が成立するには、胚の側の条件と子宮内膜の側の条件、そして両者のタイミングが合っていることが必要です。子宮内膜が受け入れ可能な期間は限られており、これを着床の窓と呼びます。
つまずくとどうなるか:子宮内膜ポリープや慢性子宮内膜炎、子宮筋腫などが着床を妨げることがあります。また胚に染色体異常があれば、着床しても継続しません。
妊娠成立の確率はもともと高くない
これだけの条件がそろって、ようやく妊娠が成立します。健康な20代のカップルでも、1周期あたりの妊娠率は20〜25%程度とされています。
つまり、数周期妊娠しないこと自体は異常ではありません。ただし年齢が上がるとこの確率は下がり、35歳を過ぎると1周期あたり10%前後、40歳では5%前後まで低下します。
よくある質問
Q. 排卵日に性交すれば妊娠しやすいのですか?
A. 実際にもっとも妊娠率が高いのは排卵日の1〜2日前です。精子は数日間生存できますが、卵子の受精可能時間は排卵後およそ24時間と短いためです。
Q. 着床のときに出血しますか?
A. 着床出血と呼ばれる少量の出血が起こることがありますが、全員に起こるわけではありません。出血の有無で妊娠を判断することはできません。
まとめ
- 妊娠成立には、卵胞発育・排卵・ピックアップ・受精・移動・着床の6ステップが必要です
- ピックアップ障害のように、現在の検査では確認できない段階もあります
- 体外受精は、うまくいかない可能性のある複数のステップをまとめて代行できる治療です
どの段階に課題があるかを知ることが、治療選択の出発点になります。
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ご利用にあたって
本記事は、不妊治療について一般的な情報をお伝えすることを目的として作成しています。記載している検査・治療の内容や数値は、あくまで一般的な目安です。適応や治療方針は一人ひとりの状態によって異なり、医療機関ごとに方針が異なる場合もあります。実際の診断・治療については、必ず主治医にご相談ください。
また、法制度や公的支援の内容は改定されることがあります。手続きの際は、必ず厚生労働省・お住まいの自治体・各医療機関の最新の公表情報をご確認ください。